法人成りシミュレーション(役員報酬の決め方つき)

執筆:元取締役の総務担当最終更新:2026年9月29日

個人事業のままがいいのか、法人化したほうがいいのか。 この判断は役員報酬をいくらにするかとセットでないと決まりません。 このツールは役員報酬を刻んで計算し、手取りが最大になる金額を探したうえで、 個人事業のケースと比べます。

令和8年4月開始事業年度からの防衛特別法人税、令和8年分の給与所得控除74万円に対応
役員報酬・青色申告特別控除を引く前の金額です
40〜64歳は介護保険料がかかります
法人に残したお金は、あとで個人に移すときにもう一度課税されます。 公平に比べたいときは上の「全額個人へ移す」を選んでください

個人事業のままが有利: 差は年間 52,270円

個人事業のまま645.8万円手取り
法人化(役員報酬 月725,000円)640.6万円利益を全額個人へ
うち役員報酬の手取り640.7万円
うち法人に残る利益-0.2万円税引後

参考:法人に利益を残してよい前提なら、役員報酬 月150,000円で 手取り+内部留保が最大(747.9万円)になります。 ただしその場合、598.8万円は法人の中にあるお金で、 個人に移すときに再び課税されます。

📌 この条件では、年間の利益が およそ 1,180万円 を超えると 法人化のほうが手元に残るお金が多くなります (利益を全額個人へ移す前提)。

個人事業の内訳

項目金額
事業所得(青色控除後)9,350,000円
国民健康保険料1,125,884円
国民年金保険料215,040円
所得税1,085,800円
住民税760,400円
個人事業税355,000円
手取り6,457,876円

法人化した場合の内訳(役員報酬 月725,000円)

項目金額
役員報酬(年額)8,700,000円
本人負担の社会保険料1,212,108円
会社負担の社会保険料(法人の経費)1,212,108円
役員報酬の所得税567,500円
役員報酬の住民税513,200円
法人の課税所得87,892円
法人税13,050円
地方法人税1,344円
法人住民税(法人税割+均等割)70,913円
法人事業税+特別法人事業税4,171円
防衛特別法人税0円
役員報酬の手取り+法人に残る利益6,405,606円

役員報酬をいくらにするかで手取りが変わる

役員報酬を高くすると給与所得控除が使える一方、社会保険料と所得税の累進税率が効いてきます。 低くすると法人に利益が残り、法人税で課税されます。この綱引きの最適点を探したのが下の表です。

役員報酬(月額)役員報酬の手取り法人に残る利益合計
0円-137,340円7,217,539円7,080,199円
50,000円462,660円6,838,361円7,301,021円
100,000円1,018,600円6,434,475円7,453,075円
150,000円1,491,512円5,987,572円7,479,084円
200,000円1,946,300円5,469,066円7,415,366円
250,000円2,391,200円4,937,047円7,328,247円
300,000円2,866,600円4,432,079円7,298,679円
350,000円3,302,500円3,900,060円7,202,560円
400,000円3,753,512円3,381,579円7,135,091円
450,000円4,230,200円2,885,390円7,115,590円
500,000円4,647,000円2,335,910円6,982,910円
550,000円5,063,800円1,786,432円6,850,232円
600,000円5,438,312円1,278,874円6,717,186円
650,000円5,798,912円729,396円6,528,308円
700,000円6,205,592円231,244円6,436,836円
725,000円6,407,192円-1,586円6,405,606円
750,000円6,596,312円-310,188円6,286,124円
800,000円6,994,232円-938,268円6,055,964円
850,000円7,392,152円-1,566,348円5,825,804円

⚠️ 「法人に残る利益」はまだあなたの手元にはありません。 将来、役員報酬・配当・退職金として個人に移すときに再び課税されます (退職金として受け取れば退職所得控除が使えるため、税負担は軽くなります)。 この表は「法人化した時点で消えずに残るお金」を比べたものだと考えてください。

設立費用の目安:株式会社 約20.2万円〜、合同会社 約6万円〜(登録免許税・定款認証。電子定款の場合)。 このほか、毎年の税理士報酬・社会保険の事務負担が発生します。 年間で数十万円のコストがかかるため、差額がそれを上回るかで判断してください。

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法人化が有利になる理由は「給与所得控除」です

個人事業の場合、売上から経費を引いた金額がそのまま事業所得になります。 一方、法人化して自分に役員報酬を払うと、その報酬は給与所得になり、 給与所得控除を使えます。令和8年分なら最低でも74万円、 年収500万円なら144万円が無条件で引かれます。

さらに、法人に残した利益には法人税がかかりますが、 年800万円以下の部分の税率は15%と低く抑えられています (中小法人の軽減税率。令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象)。 所得税の累進税率が20%・23%・33%と上がっていくのに対し、 法人税は一定なので、利益が大きいほど法人が有利になります。

ただし、法人には固定費がかかります

  • 法人住民税の均等割:赤字でも年7万円(東京23区・資本金1,000万円以下・従業者50人以下)
  • 社会保険の強制加入:法人は役員1人でも報酬があれば健康保険・厚生年金に加入義務があります。 労使折半といっても、実質的には自分の会社が払うので全額が自分の負担です。 国民健康保険+国民年金より高くなることが多い点に注意してください
  • 税理士報酬:法人の決算・申告は個人より複雑で、年20万〜50万円程度が相場です
  • 設立費用:株式会社で約20万円〜、合同会社で約6万円〜(電子定款の場合)

このツールの計算には税理士報酬は含めていません。 「法人化による手取りの差」が、税理士報酬と事務負担を上回るかどうかで判断してください。

役員報酬の決め方:金額を動かしても、残る額はあまり変わりません

法人成りでいちばん迷うのが役員報酬の金額です。 結論から書くと、広い帯のどこに置いてもほとんど変わりません。 利益1,000万円の会社で、役員報酬だけを動かして計算した表です。

利益1,000万円(役員報酬を引く前)の会社で、役員報酬を変えたとき(40歳未満・扶養なし・令和8年分)
月額の役員報酬社会保険料
本人+会社
法人税等個人の
所得税・住民税
手元に残る額
報酬の手取り+法人の利益
20万円68.1万円177.6万円9.7万円744.7万円
25万円88.5万円160.1万円14.5万円736.9万円
30万円102.2万円143.5万円19.8万円734.5万円
35万円122.6万円126.0万円25.5万円725.9万円
40万円139.6万円109.0万円31.4万円719.9万円
45万円149.8万円93.2万円38.6万円718.3万円
50万円170.3万円77.5万円46.3万円706.0万円
55万円190.7万円61.8万円53.9万円693.6万円
60万円200.9万円47.2万円71.7万円680.2万円
65万円221.4万円31.5万円85.0万円662.1万円
70万円228.6万円17.2万円100.3万円653.8万円
80万円238.3万円7.0万円136.1万円618.6万円
法人は赤字
90万円249.2万円7.0万円171.1万円572.8万円
法人は赤字

いちばん多く残るのが月額20万円の744.7万円、 月額45万円でも718.3万円です。 報酬を25万円動かして、差は26.4万円しかありません。 役員報酬を上げると法人税が減りますが、社会保険料がほぼ同額だけ増えて打ち消し合うためです。 表の「社会保険料」の列と「法人税等」の列を、上から下へ見比べてみてください。 一方が増えた分だけ、もう一方が減っています。

ただしこの関係は上下で対称ではありません。 月額90万円まで上げると572.8万円まで落ち、 いちばん多い場合との差は171.9万円になります。 法人の課税所得がマイナスになっても法人住民税の均等割7万円は消えず、 個人側の所得税率だけが上がっていくからです。下げすぎの損は小さく、上げすぎの損は大きいという形をしています。 期首に1年分の利益を見積もって決めなければならない以上、 外したときの傷が浅い側に寄せておくほうが安全です。

社会保険料は報酬の28%前後。ただし高いほど率は下がります

役員報酬を決めるときにいちばん効いてくるのが社会保険料です。 法人は役員1人でも報酬があれば加入義務があり、労使折半といっても 会社負担分を払うのは自分の会社なので、実質は全額が自分の負担です。

役員報酬に対する社会保険料(健康保険+厚生年金・40歳未満・年額)
月額の役員報酬本人負担会社負担合計報酬に対する率
10万円16.7万円16.7万円33.4万円27.8%
20万円34.1万円34.1万円68.1万円28.4%
30万円51.1万円51.1万円102.2万円28.4%
40万円69.8万円69.8万円139.6万円29.1%
50万円85.1万円85.1万円170.3万円28.4%
60万円100.5万円100.5万円200.9万円27.9%
65万円110.7万円110.7万円221.4万円28.4%
70万円114.3万円114.3万円228.6万円27.2%
80万円119.1万円119.1万円238.3万円24.8%
100万円130.6万円130.6万円261.3万円21.8%
120万円144.5万円144.5万円289.1万円20.1%
150万円155.4万円155.4万円310.9万円17.3%

月額10万円でも27.8%かかります。 「報酬を下げれば社会保険料を避けられる」とよく言われますが、 率そのものは下げても変わりません。減るのは金額だけです。

そして報酬が大きくなるほど、率はむしろ下がります。 標準報酬月額に上限があるためで、厚生年金は月65万円、健康保険は月139万円で頭打ちになります。 表の下のほうを見ると、月額150万円では17.3%まで落ちています。 社会保険料の重さを理由に報酬を抑える発想は、報酬が大きい帯ではあまり成り立ちません。

報酬を下げるときに見落としがちなのは、下がるのは保険料だけではないことです。 将来の厚生年金も、病気やケガで働けないときの傷病手当金も、産休中の出産手当金も、 すべて標準報酬月額から決まります。報酬を下げるのは、 いま数十万円得をして、あとで数十年ぶんの年金を減らす取引です。

「法人に残った利益」を手取りとして数えると、法人が有利に見えすぎます

上の表の「手元に残る額」は、法人に残った税引後利益も個人の手取りと同じ列に足しています。 法人税の税率は年800万円以下の部分で15%と、所得税の累進税率より低いので、 報酬を低くして法人に利益を残すほどこの合計は大きくなります。

ただし法人に残ったお金は、いずれ役員報酬・配当・退職金として個人に移すときにもう一度課税されます。同じ土俵で比べるなら、 「利益を全額その年に個人へ移す」基準も見る必要があります。両方を並べました。

利益別・2つの基準で見た法人化の損得(40歳未満・青色申告65万円・第1種事業)
利益
役員報酬を引く前
個人事業
のままの手取り
法人に利益を残す前提
最適な報酬(月額)と差
全額を個人へ移す前提
報酬(月額)と差
600万円427.3万円月9万円
+27.0万円
月43万円
−21.2万円
800万円540.7万円月9万円
+63.9万円
月58万円
−14.6万円
1,000万円657.1万円月15万円
+93.2万円
月73万円
−10.4万円
1,200万円774.2万円月28万円
+110.7万円
月89万円
+0.6万円
1,500万円928.2万円月51万円
+156.3万円
月113万円
+18.4万円
2,000万円1184.7万円月54万円
+215.9万円
月153万円
+28.2万円

右の2列がまったく違う絵を描いていることに注目してください。 法人に利益を残してよい前提なら、利益600万円でも27.0万円のプラスです。 ところが全額を個人へ移す前提だと21.2万円のマイナスで、 プラスに転じるのは1,200万円あたりからです。

どちらが正しいということではなく、お金をいつ使うかによって答えが変わるということです。 生活費として毎年ぜんぶ引き出すつもりなら右の列、 法人に貯めて設備投資や退職金に回すつもりなら左の列を見てください。 「法人成りは利益いくらから」という一般論が記事によってばらつくのは、 この前提が書かれていないことが多いためです。

決めたら、期の途中では変えられません

役員報酬を経費にするには、原則として定期同額給与である必要があります。 つまり毎月同額を支払わなければならず、 金額を変更できるのは事業年度開始から3か月以内が原則です。

このため、「利益が出そうだから年末に役員報酬を増やして法人税を減らす」ということができません。 期首の時点で1年分の利益を予測して報酬額を決める必要があります。 予測が外れる前提で決めるものなので、 上で見たとおり外れても傷が浅い低め寄りに置いておくのが実務的です。

令和8年4月から防衛特別法人税が加わります

令和7年度税制改正で創設された防衛特別法人税が、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から課税されます。 基準法人税額から年500万円を引いた金額に4%を掛ける仕組みです。

法人税額が500万円ということは、課税所得でおよそ2,600万円以上に相当します。 小規模な法人成りではほぼ影響しませんが、当ツールでは正しく織り込んでいます。

なお個人側でも、令和9年分から防衛特別所得税(基準所得税額の1%)が創設され、 同時に復興特別所得税が2.1%から1.1%に引き下げられます。 合計の上乗せ率は2.1%で変わりません。令和8年分は復興特別所得税2.1%のままです。

消費税の免税期間という論点もあります

法人を新しく設立すると、原則として設立から2期は消費税の免税事業者になれます (資本金1,000万円未満・特定期間の課税売上高等の要件あり)。 ただしインボイス登録をすると、この免税期間は使えません。 取引先が課税事業者中心なら登録は避けにくいため、 かつてほど大きなメリットではなくなっています。

計算の前提(必ずお読みください)

  • 東京都23区・資本金1,000万円以下・従業者50人以下の税率で計算しています
  • 法人事業税の翌期損金算入は考慮していません(法人の負担をやや多めに見積もっています)
  • 消費税は考慮していません
  • 役員は雇用保険の対象外として計算しています
  • 国民健康保険料は東京都特別区の令和8年度料率
  • 税理士報酬・登記費用などの実費は含めていません
  • 「法人に残る利益」は、将来役員報酬・配当・退職金として個人に移すときに再び課税されます。 この表は法人化した時点で消えずに残るお金を比べたものです

法人成りは、いったん実行すると簡単には戻せません。 このツールの結果はあくまで判断材料の一つとして、 必ず税理士に相談したうえで決めてください。

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よくある質問

役員報酬は月いくらにするのが正解ですか?

「これが正解」という1点はありません。当ツールで利益1,000万円の会社を計算すると、役員報酬が月20万円のとき合計744.7万円、月45万円のとき718.3万円で、その差は26.4万円です。25万円も報酬を動かして、残る額は3%しか変わりません。理由は、役員報酬を増やすと法人税が減る一方で、社会保険料がほぼ同額だけ増えるからです。ただしこの関係は上下で対称ではありません。月90万円まで上げると572.8万円まで落ち、月20万円との差は171.9万円になります。法人の課税所得がマイナスになっても法人住民税の均等割7万円は消えず、個人側の所得税率だけが上がっていくためです。つまり「下げすぎの損は小さく、上げすぎの損は大きい」という形をしています。迷ったら低め寄りに置くほうが、外したときの傷が浅くて済みます。

社会保険料を減らしたいので、役員報酬を極端に低くするのはどうですか?

効きますが、思ったほどではありません。社会保険料は本人負担と会社負担を合わせて役員報酬の28%前後で、月10万円でも28%近くかかります。月50万円を月20万円に下げると社会保険料は170.3万円から68.1万円へ102.2万円減りますが、同時に法人の利益が増えて法人税が77.5万円から177.6万円へ100.1万円増えます。手元に残る額としては38.7万円しか変わりません。そして報酬を下げた分だけ、将来受け取る厚生年金と、傷病手当金・出産手当金の日額も下がります。当サイトの姉妹サイトで計算できますが、これらはいずれも標準報酬月額から決まります。報酬を下げるのは「いま数万円得をして、あとで数十年ぶんの年金を減らす」取引です。

ツールの「最適な役員報酬」がかなり低い額を出すのはなぜですか?

既定では、法人に残した税引後利益も個人の手取りと同じ列に足して合計しているためです。法人税の税率(年800万円以下で15%)は所得税の累進税率より低いので、報酬を低くして法人に利益を残すほど、この合計は大きくなります。ただし法人に残ったお金は、いずれ役員報酬・配当・退職金として個人に移すときにもう一度課税されます。同じ土俵で比べたい場合は「利益を全額その年に個人へ移す」基準を見てください。その基準で計算すると、利益1,000万円では法人化すると個人事業より10.4万円マイナスで、プラスに転じるのは利益1,200万円あたりからです。当ツールは両方の基準を出しています。

期の途中で役員報酬を変えられますか?

原則としてできません。役員報酬を法人の経費にするには定期同額給与である必要があり、金額を変更できるのは事業年度開始から3か月以内が原則です。それ以外の時期に増額すると、増えた部分は経費として認められません(減額は業績悪化など特別の事情がある場合に限られます)。このため「利益が出そうだから年末に報酬を増やして法人税を減らす」ということができず、期首の時点で1年分の利益を見積もって決める必要があります。見積もりを外したときの影響が非対称であることは、上の早見表で確認してください。

役員報酬を0円にすることはできますか?

制度上は可能です。ただし社会保険の被保険者資格を失うため、国民健康保険と国民年金に自分で加入することになります。また役員報酬が0円だと給与所得控除を使えないので、法人化の最大のメリットが消えます。実務では、他に給与収入がある方が副業的に法人を持っている場合などに選ばれる形です。なお報酬を0円にしても法人住民税の均等割(年7万円)はかかります。

社会保険料は報酬が高いほど重くなりますか?

逆です。割合で見ると軽くなります。標準報酬月額には上限があるためで、厚生年金は月65万円、健康保険は月139万円で頭打ちになります。当ツールで計算すると、月20万円では報酬に対して28.4%かかるのに対し、月100万円では21.8%、月150万円では17.3%まで下がります。「社会保険料が重いから報酬を抑える」という発想は、報酬が大きい帯ではあまり成り立ちません。

出典・根拠

最終更新:2026年9月29日